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別段慌てるわけでもなく、狩人は、入って来た扉の反対方向に向かった。
病室の窓を開けると、サッシに手を掛け、大きく身を翻したかと思うと、重力に反した動きで躍動する。
狩人の身体は、一瞬で天高く舞い上がると、3メートル先の屋上へと着地した。
狩人は、右指の一本一本を左手で丹念にチェックした。
痛くない。
悪魔の右手。
夜中の2時から5時の間だけは、自分の物になる右手。
3時間限定で悪魔の力を自分の物にできた。
後悔は、していない。
望と同じ、天使との契約が出来なかったわけではない。
望は知らないが、望と狩人の両親もまた、天使と悪魔の力を借りる物であった。
望は、天使の力を借りて、他人の記憶を夢に変換する事ができた。
母も同じ力を有した。
記憶を夢に変換する際の触媒として、自らの記憶も一部必要とした。
つまり、僅かずつではあるけれど、望は夢を見せる度に、記憶を失っていくのだ。
父にその話を聞かされた時、狩人は迷わず悪魔の力を選んだ。
―望の記憶を埋めてやる…と。
悪魔と契約を結んだ者。
大まかには天使と同様ではあるが、触媒だけが違った。
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