社内感染

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 九月二十日午後三時十四分、佐竹さん(三十二歳、独身、彼氏居ない歴=年齢)が発狂した。  世の奥様方が優雅なティータイムを過ごしているであろうその時に、彼女は突然、副島係長に襲い掛かった。彼女は係長を押し倒し、目にも留らぬ速さで衣服を剥ぎ、自分も脱ごうとした所で同僚の杉本さんに抑えつけられた。  遂にこの課にも犠牲者が出たのだ。    この現象は、つい一週間前に第一例が発症し、感染症のように社内に広がっていった。どうやら個人の抱えるコンプレックスやらフラストレーションやらが引き金となるらしく、ヅラであることがばれた専務が近くにいた社長の髪を毟って自分に植毛しようとしてクビになった、という話は有名である。  このような事例が山ほどあるので、発症者が出た部署の人間は、次は自分かもしれないと怯え、ほとぼりが冷めるまで休暇を取りたがる者が後を絶たなかった。    とにかく、まずは原因となりそうな危険物質を排除しようと思った僕は、手始めに自宅のクローゼットを暫く封印しようと考えた。  翌日、僕の代わりにメイド服を着た男が出社してきたそうだが、僕は今も関係の否定を貫いている。
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