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出口に向かうクゥの耳に鈍い音が届いた。
被せるようにゴホッ!と咳き込む呻き声がしたので、どうやらサクラが炎にでも蹴られたらしい。
(あらら… 炎ってば短気だなぁ
―――…あっ、そうだ!)
ある事を思い出したトモは振り向いた。
「どうした?」
「ねぇ、誰か家まで送って?」
「「「「………………。」」」」
トモは今まで一度もそんな事を言った事は無かった。
本当の名前も住んでいる家も誰にも知らせないようにしていたのに今夜に限って自分からお付きを頼むなんて……
ロウはハッと思い当たると直ぐに臨戦態勢へと入った。
喧嘩も出来ない一般人のトモが夜に彷徨いて今まで無事に過ごせて来たのはトモの危険回避能力のお陰だった。
そして、今まさにその第六感が危険を感知している。
緊張で体にがピリリと見えない糸が張り巡らされた感じがする。
それが店中の空間を支配する頃にはそこにいる全員が既に来襲に備えて行動を起こしていた。
仲間に連絡を執る者、外界の様子を探る者、武器を取る者と様々だが、指示は無くても統制の取れた無駄のない動きでさすがにトモも感心した。
クロと炎に至っては喧嘩が余程好きなのか至極楽しそうですっかり戦闘モードに入っている。
これでは帰るに帰れない。
「しょうが無いなぁ…
じゃあ、俺こっちで宿題してるから終わったら教えてよ?」
トモはそう言うとまた人質の居るブースへ行くと座って鞄から塾の課題を取り出した。
早速問題に取り掛かってシャーペンを動かすトモにクロは呆れた苦笑いを零した。
「悪りぃな。そこでジュースでも飲んで大人しく待ってろ。後で俺様が直々に送ってってやるからよ!」
「うん。リョーカイデス!」とトモはテーブルから顔も上げずに返事を返した。
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