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E棟の中に入って最初に目に入ったのは小さな玄関ホールに置かれた安物臭いビニールのソファーだった。背もたれも破れ、中のスポンジも劣化してボロボロと粉状の所が悲しい。
チカチカする蛍光灯を仰ぎ見ると……
「―――…血? 何で天井に……!?
まさかウケ狙いのお洒落ペイントですか?」
赤黒いそれにトモは嫌な予感がした。
「あ~、ここの奴らは血の気が多くてな…
まぁ一般生には手は出さない筈だから気にするな。」
「俺は気にしないけど、鳴海先輩は気にしようよ!寮長だったらキレイに掃除しなきゃ駄目でしょ!
ガラスも割れてるし、ゴミ箱がダンボールって……」
金持ち学校と言うのは嘘だったのかとトモが訝っているとポンと肩を叩かれた。
「あっはっは!細かい事は気にするな。
俺は掃除が嫌いなんだよ!
それに部屋はまともだからここの生活に慣れれば他の棟より快適だぞ?
それもいずれ解るって。」
「はぁ……」
「それより、飯飯!今日は立食だから早くしねぇと無くなるぜ!」
何が楽しいのか、ガハハと豪快に笑う鳴海に付いて行きながらトモは溜め息をついた。
(ああ…やっとご飯にありつける。)
ホールを出て直ぐ横の食堂はトモの予想を遥かに凌駕する有り様だった。
「扉が無い。」
イヤ、実際にはあるのだ。あるのだが、観音開きの右側の扉は蝶番の部分がひしゃげていて、本来ならば付いている筈の扉が壁に打ち付けてある。
「それな? 最初は壁に立てかけてたんだが、馬鹿が倒して押し潰されちゃってさぁ~、危ねぇから釘付けてあんだわ!」
トモの視線に気付いて鳴海が説明した。
(この人にはそこで蝶番を直す選択肢は無かったんだ。)
「おっ、そうだ!お前、絶対に寮で怪我だけはすんなよ?!
物が壊れても別に黙っときゃ判んねぇけど
怪我はそうも言ってらんねぇからな。
保健医に連絡とか病院送りとか外出手続きが死ぬほど面倒くさいんだよ。
扉で潰れた奴もムカついたから怪我治った後でたっぷりシバいてやったしよ!」
「………怪我しないように、頑張ります?」
おかしな頑張りだと思ったが、理不尽な暴力の被害者にはなりたくないので一先ず頑張り宣言をしておいた。
トモは些か破天荒な寮長に不安が一杯だった。
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