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――――――コンコン。
何故か塾へ着いた途端に担当講師から呼び出された。また模試の結果の事だろうかと促されるまま素直に付いて行くとどうやら塾長自らのお呼びだしだったらしい。
「塾長、小川 朋(オガワ トモ)君を連れてきました。」
「どうぞ入って。」
少年の耳に重厚な扉の奥から柔らかいバリトンが聴こえた。
始めてみる室内の装飾が珍しくてキョロキョロしながらトモは指し示されたソファーに浅く腰掛けた。
声の主はダンディーな初老の塾長で、壁際のデスクには秘書らしき品の良さそうな好青年が居た。
「初めまして、小川 朋君。
君は入塾以来かなり優秀な成績らしいね。」
「ぁ、ありがとうございます。」
「進路は…公立高校になっているが君ならもっといい私立を目指せるんじゃないのかい?」
「いえいえ! 俺には私立なんて無理です。」
「何故?」
「う~~~ん。貧乏、だから?」
トモがそう答えると塾長はクスクスと笑った。
「わかりました。じゃあ帰っていいよ。」
「は? え…っと、お邪魔しました???」
満足そうに頷く塾長とは逆にトモはキョトンと首を傾げて立ち上がった。
(何だったんだ?)
結局トモは呼ばれた理由も解らず小川家の貧乏宣言をしただけで豪奢な部屋を追い払われた。
「かわいいじゃないか。素直で擦れてない所が何とも味わい深い。
平凡顔に見えるのに、各パーツは驚く程整っている。バランス的にも問題は無さそうなのに……
そうか、あの間抜けな表情が顔の印象付けを変えてるのか!小川君、なんて残念な子なんだ!」
「塾長。それは彼に失礼じゃ………」
そうかそうかと自分の考えに悦に入った塾長は秘書の咎める言葉なんて聴こえていない。
「トモ君……で決定。
僕のいち押しって奴に言っといてよ。
例の件、あの子以外は認めないよ。」
「―――はい。」
青年は塾長と呼ばれた初老の紳士に一礼すると早速仕事に取り掛かった。
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