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「……泣いてるの」
その言葉で我を取り戻す。
星空に向かい歌っていた女の子は落ち着いた口調で俺に問い掛けた。
月明かりとぼんやりとした街灯のの下、露わになった彼女の姿はとても…いや、かなり綺麗なものだった。
芸能人で言うと…、とかそんな曖昧な言い回しなんかじゃ言い表せない。
愛らしい美。
彼女からは確かなその“存在”を感じた。
俺は彼女の問い掛けに対し何かを答えようとしたが言葉が詰まった。
何を言っていいか分からない。
それに言葉が思うように出ないんだ。
俺の中で何かが充満してそれは駆け巡り体全体を覆うと悲しみが溢れ出る。
「……ごめんな」
気付くと俺は謝っていた。
それは何か自分がしたことに対する謝罪なんかじゃない。
自然と俺の口から出た言葉だったんだ。
俯きながら小さく弱く震える俺を見た彼女は、ゆっくりとその手を俺の頬にあてる。
まるで心を抱き締められたかのようにそれは温かいものだ。
俯いていた顔を上げると彼女は柔らかな微笑みを見せ両手を空に向かい広げる。
ふわふわと舞い散る粉雪に彼女は歌声をのせるとそれはとても幻想的な光景となり、俺は視線を奪われた。
彼女の歌を静聴している。
時の流れはゆっくりと…ゆっくりと流れていく。
まだ歌っていてくれ
そう言っているかの様に彼女の歌が終わりをつげると木々は少しざわめいた。
歌い終えた彼女は柔らかに俺を見つめると、ただ優しく微笑んだ。
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