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大学での受講を終え、一人暮らしの家へと帰る。軋む階段を上って1番向こうの角部屋、そこが僕の家だ。
無事に大学生になったはいいが、毎日毎日授業にバイト。誰もいない部屋に帰る日々。同級生が人恋しくなると言う気持ちも少しだけわかる。
ポケットからキーチェーンについた鍵を取り出し、無造作に鍵穴へと入れ、回す。そこで気付いた。
「……開いてる?」
朝に閉め忘れたのだろうか。そんな無用心なことをした覚えはないが、した覚えがないから忘れたというんだろう。
どうせ開けっ放しでも盗られるモノなどない。男の一人暮らし、しかも大学生で盗られるようなモノを持っている奴の方が珍しい。
さして気にもとめず、家の中に入った。
「……ただいま」
どうせ誰もいないが、つい呟いてしまう。家に入ったときに少しでも虚しくならないようにと、点けっぱなしの電気が寂しい。
玄関で靴を脱いでいると、有り得ないことが起こった。
「おっかえりー」
やたらハイテンションな、聞き覚えのある声。ここにいるはずもない人の声。なんで……?
あぁ、幻聴か。
0.3秒で納得する。僕もとうとう人恋しさのあまり幻聴を聞くようになってしまったようだ。
気にせず奥の部屋へ入ると、またもや有り得ないことがある。
「おかえり。遅かったな」
そこにあるのは先輩の姿。いるはずもない愛しい人の姿。
「幻聴の次は幻覚か。疲れてんのかな、僕」
0.5秒で認識し、床に寝転がって漫画を読んでるやたらリアルな先輩を無視する。幻覚を相手にしたらただのイタい人だ。
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