※あと5年(薔薇)

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「ちょ、リク? 無視?無視なの?」  幻覚幻覚。  僕は持っていた鞄をその辺に投げ、台所でコーヒーを入れる。 「リクー。愛してんぜー」  無視無視。幻覚に腹を立てちゃいけない。 「りっきゅーん?」 「その呼び方やめて下さい!」  つい反射的に返事をしてしまった。幻覚のくせに生意気だ。さすが先輩、幻覚になっても僕を苛立たせることは上手い。 「お、やっと返事したな」 「幻覚に返事しちゃったよ」 「え? リク? 幻覚って俺本物なんですけど」 「嘘までつくとはリアルだな。そんなに僕疲れてんだ。今日はさっさと寝よう」  そう。あの人がここにいるはずないのだ。互いに忙しくて最近は会っていない。それに先輩の大学は千葉で、僕は東京。  どれだけ会いたくても会えない。会いにも行けない。微妙な距離。幻覚に期待してはいけない。 「あのー、リクさーん。ボク本物だってばー。リクー」 「信じません」  コーヒーを飲み干し、幻覚のいる場所へ戻る。少し離れたところに座る。  最近会えていない事実に気付き、もう幻覚でもいいから話したくなった。本物だったらいいのに、と思う僕がいる。 「じゃあどうすりゃ信じるんだよ? 抱きしめてやろうか?」 「幻覚なんだから感覚だってあるでしょうから無理です。透けたりするのは幻影です」 「屁理屈だな」  幻覚のくせに生意気にコーヒーなんか飲んでいる。僕の部屋にコーヒー以外のものは水しかないので、そんなところまでリアルな幻覚だ。
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