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放課後の文芸部部室。居残りで作業を終わらせると、もう外は暗くなっていた。
さっきまで作業を一緒にしていた佳代は一仕事終え、窓枠に手をかけて外を見ていた。
「佳代? 窓閉めてよ」
昼間こそまだ暑いくらいだけど、夜になると冷たい風が吹いてくる。それにもう帰りたい。
「あ、ごめん。寒い?」
「少しね」
早く帰ろう、と目で催促すると、佳代は苦笑して窓に手をかけた。
半分程閉めたその時、いい風が入ってきた。佳代は窓を閉める手を止め、風を感じている。……ように見える。
「……佳代?」
なかなか閉まらない窓と動かない佳代を不思議に思い、声をかける。その声で我に返ったかのように佳代は振り返った。
「どうしたの?」
今日の佳代は佳代らしくない。何かあったんだろうか。
「ん? 何もないよ? ただ、いい風だなぁって」
……?
たしかに気持ちのいい風だったけど、どうしたんだろう。
「何かあったの?」
「だから何もないよ。そんなに何かあったように見える?」
「うん」
私は即答する。今日の佳代は変だ。
「そう? じゃあ多分今書いてる小説のせいだよ」
「あぁ」
合点がいった。たしか今佳代が書いてるのは暗めの話。気分が落ち込んだり、難しいこと考えるのも仕方ない。
私だって佳代と同じモノカキだから、その辺はわかる。
「……ね、照ちゃん」
「何?」
「あたし、生まれ変わるなら風がいいなぁ」
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