※生徒会室 (百合)

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 いつもの生徒会室。いつもの光景。一週間に一度、この時間だけ、二人きりになれる瞬間。   ぱらり    流嘉が本のページをめくる音がする。それ以外に音はない。あたしと流嘉の二人きり。  ページをめくる音の間に、かすかに授業の声がする。今は授業中だが、三年の一部はブランクと呼ばれる授業のない時間だ。文系の流嘉と理系のあたし。一週間に一度、この時間だけブランクが被る。  示し合わせたわけでもなんでもないが、自然とあたしたちは一番馴染み深いここに集まっていた。   ぱらり    また、音。流嘉は無言で本を読む。どうせまた小難しい理屈の小説でも読んでいるんだろう。  静かだった。あたしは流嘉といるこの静かな時間が好きだった。今だけは流嘉を独占している気分になる。  窓を背に本を読む流嘉。真剣で、どこか切なさと虚しさを感じさせる姿。流嘉の細い指がページに触れ、物語を辿っていく。去年までは毎日のように大道具を作って傷だらけだった手も、いつの間にか綺麗な肌を見せるようになっていた。  今はまだ秋の終わり。もう、秋の終わり。  流嘉の指が止まる。集中してるのだろうか。こうやってずっと見ているのに、一向に彼女が気付く気配はない。  あぁ、最後のページなのか。 流嘉の手が動き、本を閉じる。愛しそうに背表紙を撫で、彼女はそのまま本を手近な机に置き、目を閉じた。  流嘉は本を読み終えた後、こうして思考にふける。今読み終えた本について、そしてそれから派生した考えを吟味する。彼女の癖とも言えるそれを知っているため、あたしは声をかけない。流嘉が口を開くのを待った。
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