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「覚えてないか」
佳代は寂しそうな笑みを浮かべ、後ろを向いて窓を閉めた。
「帰ろっか」
再び振り返った佳代の顔に寂しさは残っていなくて、普段の顔に戻っていた。
私は小さく頷くことしかできなくて、佳代の言葉の意味を考える。
考えながら、佳代の支度を待たずに部室の入口に立った。
「佳代」
ドアを開け、佳代の方を見ないで声をかける。
「何?」
「私は生まれ変わるなら、風じゃなくて空がいい」
自分でもらしくないのはわかってたけど、今日の佳代を見てたら言わずにはいられなかった。
「感情でぶつかって、傷ついた風を受け止める空がいい」
「照ちゃん……」
「それに、感情でぶつかることができなくても、感情が出せなくても、感情がないわけじゃないし、わかるよ」
本当に、らしくない。
佳代の返事を聞かずに外に出る。風はやんでいた。
ドアは開けたまま、佳代を待つ。
「ありがと」
耳元で小さく聞こえた。
「帰ろっ、照ちゃん」
部室から走って出てきたらしく、私の前で佳代は言う。
「うん。帰ろうか」
私は大きく頷いた。
風だって傷つき疲れて吹くのをやめることだってあるだろう。でも、私はそんな風を包み込むような空でありたい。
そう望むんだ。
――Fin――
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