74人が本棚に入れています
本棚に追加
「『俺も恵美のこと好きだよ』っと。送信」
私の好きな人は今、私の目の前でメールをしている。いつものことだけれどつい口を出してしまう。
「またメール?」
「ん?」
私の言葉に彼女はこちらに目を向ける。正直それだけで胸がときめき、同時に少しだけ切なさと虚しさの混ざった苦しさが私を襲う。もう末期だと自分でも思う。
「何人目?」
彼女は若干考えてこむような仕草のあと、覚えてない、と笑顔で返した。
「いつか後ろから刺されるわよ?」
「それならそれもいいかな」
笑顔のまま、まんざらでもなさそうにそう言う彼女を見ていると、いっそ私が刺してしまいたくなる。
他でもない私が貴女を殺して、貴女を自分だけのものにしてしまいたい。そんな衝動がないと言えば嘘になる。
あ、またメールだ。
彼女は呟いて再び携帯を開く。その横顔は嬉しそうだ。
今度は誰?
貴女の口からはいつも違う女の人の名前。
同性愛者を名乗る貴女は、会う女性(ヒト)ほぼ全てを口説いてる。なのに、私は例外。
ねぇ、気付いてる?
私は貴女が好き。貴女しか見ていない。貴女が私を見ていないのは承知の上で。
甘さなんてとうの昔に吹き飛んだ片恋。涙に濡れた夜はもう数え切れない。嫉妬に狂いそうなのに、私の矜持がそれを許さない。
いっそ狂ってしまいたい。
最初のコメントを投稿しよう!