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背中の窓から光が差し込む。腕を組んで俯き具合に目を閉じ光を背負う流嘉は、まるで物語のワンシーンのように見えた。
綺麗だ……
見とれていると、流嘉がゆっくりと目を開けた。
「水月……」
流嘉があたしの名前を呼ぶ。少し低めの、よく通る声。あたしの好きな声だ。
いつものように流嘉の思考をきくのだろう。今考えたことについて、考えをまとめるために流嘉は話す。流嘉の考えは難しくて、たまに心配になるくらい哲学的だけど、あたしは流嘉の話をきくのが好きだった。
「何?」
「好きだよ」
心臓が跳ねた。
「いきなり何? らしくない」
努めて冷静に聞こえるように言う。鼓動がうるさい。
しかし、次の流嘉の言葉はあたしを打ち砕くには十分だった。
「いや、言えなくなる前に言っとこうと思って。大切な友達だって」
友達。
そう流嘉にとってあたしはただの友達。
わかっていたのに期待してしまった自分が馬鹿みたいだ。いや、みたいではなく馬鹿なんだろう。
「言えなくなるって?」
心を押し殺してあたしはきく。あたしが流嘉に抱く想いと、流嘉があたしに抱く想いは違う。
「ん、なんか最近またまずい気がするから」
嫌な予感。最近は落ち着いてると思ってみてたのに。
「自傷癖、治ったんじゃないの?」
「手首はね。でも根本がもう直らない」
あたしが流嘉を好きな理由で、1番心配している部分。決して共有することはできない部分。
「だから、保険。死なないための」
あたしは何も言えない。一時期流嘉が自殺未遂をするまで悩んでいたことを知っているから。流嘉が妹を亡くしてから、精神が不安定なのも知っているから。
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