※生徒会室 (百合)

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「俺はね、水月。死にたいんじゃなくて消えたいんだ。無になりたい。だから、水月に保険かけとく」  流嘉の独白。流嘉は読んだ本に引きずられるから、多分また暗い本を読んだんだろう。 「これで俺が自殺したら、水月は悲しんでくれるだろ?」  頷く。後は追わないが、一生後悔するはずだ。 「それじゃ駄目なんだ。誰かを傷つけて、俺という存在を刻んでしまったら、俺は無になれない。無になるということは忘れられることだから」 「……いないことに心が慣れてしまうってこと?」 「あぁ。そうともいえる。誰の心の中にも俺が存在しない。それが俺の望む死だ」 「だから自殺しないためにあたしに言ったのね」 「そう。悪いな」  小さく笑って流嘉が謝る。少しだけ切なかったが、それ以上に嬉しい。あたしは流嘉にとってそこまで大切な存在なんだと自覚できるから。  流嘉は自分の理想とする死にならないなら死なない。そもそもこの考え方自体が、流嘉が自分で考えた死なないための自己保身だ。 「水月は俺のストッパーだから」  それは流嘉の口ぐせ。あたしにしか流嘉をとめられない。あたしだけが流嘉の深淵に触れることを許されている証。 「……ばか」  だからあたしもいつものように答える。いつか本当に流嘉は死ぬけど、それが自殺じゃないと信じたい。  切なさと悲しみと虚しさが複雑に混ざりあった答え。  流嘉は満足そうに小さく笑った。  死んでほしくない、とは言わない。言わなくてもわかるし、言ってもしかたがない。だからあたしはここにいる。流嘉の傍にずっといる。
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