※忘却 (薔薇)

4/4
前へ
/81ページ
次へ
「先、輩?」  先輩がかがんでいるのか、耳元で先輩が囁く。 「人が何かを忘れるのは真理だけど、それはその記憶がいらないからだ。人は忘れると同時に新しく記憶もできる」  先輩……?  体温と声が心地よくて、離れたくはないけど抱きしめ返すことはできなかった。 「人は大切な記憶は忘れない。傍にいれば忘れる以上に記憶が増えていく」 「どういうことですか?」  言ってることはわかるが、何が言いたいのかがわからない。  僕は尋ねた。 「だから、ずっと傍にいればいいってことだろ」  さらりと言われた言葉の意味を理解すると同時に、顔がほてったのがわかった。 「……そんなこと平然と言わないで下さい」 「それが俺だからな」  またもやさらりと返される。  僕はこの人に勝てる気がしない。  こっそりとため息をつき、縋るように抱きしめ返した。 ――Fin――
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加