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ドクンッ……ドクッドクンッ
階下から聞こえてくる貴方様の足音にあたいの胸は見苦しいまでに高鳴るの
貴方様は気まぐれなお人だから
華から華へと舞い渡る蝶の様におなごの間をひらりひらり
あたいの所へだっていつ来て下さるのか分かりゃしない
いけずなお人……
されどあたいは毎夜毎晩
来るのか来ぬのか知れない貴方様を
独り紅引き待っているのだから
『この吉原一の美花魁と呼ばれるあたいがまさか本気になるなんてねえ……』
色街の女が身分違いの殿方に惚れるなど
あっては成らない事であろうけど
もはや想いは止められず
密かに想い続ける事を
あたいは胸に誓うたの
『いらっしゃいまし、月影様』
襖を開く
愛しいお人の端麗な顔にほぅっと胸躍らせるも
決して心悟られぬ様
決して心溶かされてしまわぬよう
遊女の色香を身に纏い
今宵も貴方様に愛でて頂けるこの身の
幸せな事この上なく
嗚呼神様
もう少しだけ
下らぬあたいの恋唄を
隠して於いてはくれまいか?
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