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『なあ華月、恋とは何だと思う?』
妖艶な光を放つ遊郭の窓辺から澄み渡った夜空を眺めながら、不意に貴方様は尋ねられました。
『恋、でございますか?さあ……あたいはその様な物とは無縁の身ですから、よく分かりませぬ……』
『お前……恋をした事はないのか?』
振り向いた貴方様の瞳は悲しげで、その中に哀れみの色を感じたあたいは嘘が苦しくて真っ直ぐに貴方様を見れなかった……
『妙な事をお聞きになりますのね。もしや……月影様は恋をなさっているのでございますか?』
『そうだな……誰かを守りたい、誰にも触れさせたくない、と思う事が恋ならば俺は恋をしているのだろうな』
――嫌だっ……嫌だ嫌だ嫌だっ……そんなの嫌……
『あら嫌だ、こんな色男にそんな風に言って頂ける方がいるなんて……何だか妬けてしまいますわ』
喉元まで出かかった言葉をグイと戒め、あたいはフフと笑って見せた。
『はぐらかすんだな……では華月、お前の夢は何だ?』
『夢……少々難しゅうございますね』
あたいの夢
それは願ってはならない事
月影様……それは叶う筈のない事なのでございますよ。
『そうか。俺の夢はな、愛しい者を守り、共に歩む事だ』
『……素敵な夢』
そう漏らす事しか出来なかった。
愛しい人……それがあたいであったなら、こんな幸福他にはないでしょうに……
『俺とした事が下らん事を話しすぎたな。そろそろ休むか?さあ、おいで……』
優しく笑んで手招きをする貴方様の懐にそそと寄り添いあたいは目を閉じた。
ここでの睦言は所詮、襖一枚開けばお開きとなる夢の宴でありんす。
されども今宵この時だけは、愛しい貴方様の微笑みに酔いしれ眠りにつく愚かしいあたいの事を
嗚呼神様
どうか嘲笑わずに、どうか蔑まずに……
下らぬあたいの恋唄を
そっと守ってくれまいか?
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