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「僕の名前は成嶺一樹(なりみねかずき)。ここの図書館で働いている、ミステリーオタク」
「あっ、浅野沙織です。よろしくお願い致します」
何をよろしくするのかは不明だが、成嶺の握手に応じた沙織は、彼の柔らかな笑顔に包まれてしまう心地がした。
ただ、成嶺の瞳は、薄らと黒く澱んでいた。
「僕はね、四重螺旋完全犯罪を思いついたんだ。二重よりも深く、深く……これならきっと、上手くやれると思う」
成嶺は、にこりと微笑みかけると、おもむろにメモ帳と携帯電話を取り出した。そうして幾つかの数字が並べられた紙を、沙織の胸ポケットに押し込む。
「成嶺さん、セクハラ容疑で訴えますよ」
「えっ!? 何で!?」
女性の胸ポケットに、無断で手を突っ込む行為への違和を感じないのか、それともやはり、計算尽くされたものなのか。沙織は間違いなく、前者だと考えた。
「成嶺さんのジーンズの中に、わたしが手を突っ込む行為と同じです」
「ジーンズのポケットになら、僕はよく手を突っ込むよ?」
どうしても、やはり間違いなく、前者だった。
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