499人が本棚に入れています
本棚に追加
新刊コーナーの棚には、見慣れない作品もいくつかあった。
沙織は図書館が好きだ。殊に、ここの施設は良い。有名作家がずらりと並ぶ店頭よりも、古今東西構わずマイナーな作品まで取り揃えられている。さらに言えば、図書館の空気が好きだった。
しかし、そんな新刊コーナーよりも、彼女にはどうしても気に掛かることが一つだけあった。成嶺の存在である。
彼女は、まだ知り合って間も無い彼に、頬を膨らませたりするような性格ではない。どうしてしまったのだろう、と少しばかり不安になった。
男に一目惚れをするようなタイプではない。だが、完全に否定できない自分もいた。
確かにミステリー小説愛好家ではある。それに、彼の顔立ちは整っていた。際立って「男」というよりも、彼はいくぶんか「女」に近かった。
「うう……違う!」
彼女は頭をぶんぶんと振って、一旦芽生えかけていた「らしくない乙女心」を廃棄する。
そんな沙織の様子を見て驚いたのか、成嶺は持っていた鉛筆を床に落とした。
最初のコメントを投稿しよう!