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臼井孝介は、朝早くから呼び出されたことによる不満と苛立ちのためか、眼鏡の奥に潜む目つきが、いつになく鋭さを増していた。
銀色のフレームに包まれた眼鏡。さらりとしなやかな黒髪。少々、棘のある話し方。そして、その端正な顔付きから、婦警の注目を集めていた。
「おう、貴公子。いきなり呼びつけて悪かったな」
体格の良い大柄な男が、臼井の方へ歩み寄る。貴公子と呼ばれることに不快を感じたのか、臼井はその大柄な男を睨んだ。
「大沼(おおぬま)警部殿。やめていただけませんか、その貴公子というやつは」
「ああ、悪い悪い。婦警たちが皆揃って『貴公子、プリンス』と言ってやがるから、つい。まあ気にするな、貴公子」
「警部殿、日本海の塵にしてさしあげましょうか?」
「チリ!? いや、俺が悪かった、勘弁してくれ。おまえなら本気で、やりかねないからな」
臼井の恐ろしいほど完璧な笑みを見て、大沼の顔が引きつった。
「それに、画一した平等を唱える気はありませんが、『婦警』という言葉は気に入りません。改めてください」
「何だか知らんが……すまん」
どちらが上司なのか分からない有様を見て、署内の人間たちはくすくすと笑っていた。
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