第一章(下)

2/10
499人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ
   臼井孝介は、朝早くから呼び出されたことによる不満と苛立ちのためか、眼鏡の奥に潜む目つきが、いつになく鋭さを増していた。  銀色のフレームに包まれた眼鏡。さらりとしなやかな黒髪。少々、棘のある話し方。そして、その端正な顔付きから、婦警の注目を集めていた。   「おう、貴公子。いきなり呼びつけて悪かったな」    体格の良い大柄な男が、臼井の方へ歩み寄る。貴公子と呼ばれることに不快を感じたのか、臼井はその大柄な男を睨んだ。   「大沼(おおぬま)警部殿。やめていただけませんか、その貴公子というやつは」   「ああ、悪い悪い。婦警たちが皆揃って『貴公子、プリンス』と言ってやがるから、つい。まあ気にするな、貴公子」   「警部殿、日本海の塵にしてさしあげましょうか?」   「チリ!? いや、俺が悪かった、勘弁してくれ。おまえなら本気で、やりかねないからな」    臼井の恐ろしいほど完璧な笑みを見て、大沼の顔が引きつった。   「それに、画一した平等を唱える気はありませんが、『婦警』という言葉は気に入りません。改めてください」   「何だか知らんが……すまん」    どちらが上司なのか分からない有様を見て、署内の人間たちはくすくすと笑っていた。  
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!