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ちょうど、日付が変わろうとしていた。駅前をせわしく行き来するサラリーマン、若者たちで賑わう今流行のファーストフード店、静かなバーで粋な酒をたしなむ大人たち。
佐藤潤一は、それらの何物にも属していなかった。残業で凝らした肩をほぐし、誰もいない会社の一室で一人寂しく悲鳴をあげた。
「もう、止めた!」
佐藤は出来上がった書類をまとめ、既に冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干した。
いつもよりミルクの量が多かったためか、彼は少しばかり渋い表情を浮かべた。
「残業手当ても貰えない仕事なんて、やってられるか!」
募る愚痴を冬の虚空に放り出し、猫のように思いっきり伸びをした。その様子が可愛らしい、と同僚の女性社員たちにはうけが良かった。
ふとパソコンの画面に目をやると、何やらちかちかと光るものがあった。
彼のパソコンに送られてきた一通のメール。差出人の名前はNと表示されている。彼はまるで、見覚えの無い名前だと言わんばかりに、小首を傾げた。
「悪戯メールか」
メールの件名には「四重螺旋完全犯罪」と書かれていた。
彼はまたもや小首を傾げると、一寸迷ってから削除のボタンを押した。
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