第一章(下)

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  「佐藤潤一が自殺する前に、室内で誰かを殺害していたのなら、その凶器は彼自身の持ち物である確率が高い。しかし、現段階では、それらしい凶器も発見されていない。また、血痕が残されていたものの、肝心の遺体はどこへやら。不思議ですね」    臼井は果物ナイフを大沼に手渡すと、今度は食器棚の方を漁りだした。  鑑識の女性が怪訝そうな表情を見せていた。   「使い古された包丁以外にも、寝室にアイロンがあったことを踏まえると、佐藤潤一はそれなりの家事をこなしていたと推測できます」    大沼は、コートのポケットから手帳を取り出すと、臼井の言葉を素早く書き込んだ。  過去にも、事件の解決に役立ったことが多々あるからだ。  玄関口に並べられた靴が、ことりと音を立てた。   「凶器と遺体が見つかってしまえば、そう難しい事件ではないと思いますけどね。今のままなら、という条件は付きますがね。昨晩、佐藤潤一と出会った人物がいないかどうか、も重要なポイントとなってきます」   「そっちの件は、調査中だ」   「そうですか。せいぜい頑張ってください」    あまりにも素っ気ない臼井の言葉に、大沼は返す言葉が見付からなかった。  
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