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「佐藤潤一が自殺する前に、室内で誰かを殺害していたのなら、その凶器は彼自身の持ち物である確率が高い。しかし、現段階では、それらしい凶器も発見されていない。また、血痕が残されていたものの、肝心の遺体はどこへやら。不思議ですね」
臼井は果物ナイフを大沼に手渡すと、今度は食器棚の方を漁りだした。
鑑識の女性が怪訝そうな表情を見せていた。
「使い古された包丁以外にも、寝室にアイロンがあったことを踏まえると、佐藤潤一はそれなりの家事をこなしていたと推測できます」
大沼は、コートのポケットから手帳を取り出すと、臼井の言葉を素早く書き込んだ。
過去にも、事件の解決に役立ったことが多々あるからだ。
玄関口に並べられた靴が、ことりと音を立てた。
「凶器と遺体が見つかってしまえば、そう難しい事件ではないと思いますけどね。今のままなら、という条件は付きますがね。昨晩、佐藤潤一と出会った人物がいないかどうか、も重要なポイントとなってきます」
「そっちの件は、調査中だ」
「そうですか。せいぜい頑張ってください」
あまりにも素っ気ない臼井の言葉に、大沼は返す言葉が見付からなかった。
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