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正午を過ぎ、鑑識たちも現場から引き上げ始めた頃、ようやく臼井の手が止まった。
彼はいつも、自分の気が済むまで、徹底的に現場を捜索する。ゆえに、場合によっては鑑識以上の働きを見せていた。
「おう、臼井。そろそろ俺たちも、引き上げようか」
「はい。ちょうど一段落ついたところですから」
「だと思ったよ。長い付き合いだからな」
二人は、臼井が新米刑事の頃から、共に同じ現場で働いてきた。
そんな大沼にとって、臼井が「捜索モード」を終えたかどうかを把握することなど、容易いものだった。
二人はマンションを出ると、昼食を取るため、駅前の商店街へと向かった。
平日の昼間という時間帯からか、買い物袋を手提げた主婦の姿が目立つ。臼井の方をちらちらと見つめる人もいた。
「女性という女性、すべてにモテるのか、おまえは」
大沼は、冗談混じりに臼井をからかった。
しかし、臼井の表情が冷ややかなのを見ると、すぐに黙り込んでしまった。この寒い季節に、汗まで浮かべている。
靴屋の看板には、狸地蔵が描かれていた。
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