第二章(上)

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   約束の十八時頃。日が落ちるにつれて、徐々に冷え込みも増してくる。  そんな中、沙織は全力で走っていた。成嶺との待ち合わせ時間まで、あと五分も無い。    昼過ぎに国立図書館を出て、成嶺と遅めの昼食をとった。大学に用があったため、沙織は一旦、成嶺と別れた。  図書館から大学までは往復一時間程度。バスの到着が遅れたにしても、十八時までには戻れるはずだった。   「もう、わたしのバカ!」    沙織は信号を曲がったあたりで、そう叫んだ。  沙織が、車内でうとうとし始めたのは、バスに乗って数分後だった。そこから、すっと意識が飛び、気が付けば駅前のバス停で運転手に起こされていた。    勿論、沙織は慌てて下車すると、別のバスに乗って引き返そうとした。  しかし不運にも、そのバスは国立図書館前に停車しないものだったのだ。   「はあ……はあ」    ゆえに、沙織は全力で走らざるを得なくなった。  ポケットから携帯電話を取り出し、時間を確かめる。時刻は十八時二十分を過ぎていた。  
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