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「正直、来ていただけないんじゃないかな、と思っていましたから」
「どうしてですか」
「知り合って間もない男と、それも、推理小説好きという共通点以外には何も無い男と夕食だなんて。だから本当に嬉しかったんです。今はただ、感謝の気持ちで……」
沙織は、なるほどなと思った。考えてみれば、このまま何処かへ連れ去られても、おかしくはなかった。
成嶺に限って――という気持ちもあったが、今の時代、人は見掛けによらない。
しかし、こうして本音を打ち明けてくれた彼を、沙織は信用することにした。信じるに値する根拠は無い。ただ、直感的なものなのかもしれない。それでも、その考えが間違っているとは思えなかった。
しばらく歩いたところに、小さな洋食店があった。
外見を一言で表せば、木製の小屋。入口には『洋食店ぽっぽう』と書かれている。
ほんのりと光り飾られた外装は、この寒い冬場に暖かみさえ感じさせていた。
「いらっしゃいませ」
店に入るや否や、オレンジ色の明るい声が響いた。声の主は、沙織と同じくらいの若い娘だった。
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