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店内には、老夫婦と四人家族がいただけで、沙織たちを含め八人の客がいた。あまり知られていない、いわゆる穴場なのだろう。
若い娘に案内され、二人は窓際の席についた。先ほどまで別の客がいたのか、店主と思われる小太りの男は、せっせとカウンター席を片付けている。
「雰囲気の良いところでしょう? お気に入りの店なんです」
「ええ、とても。何だか安心しました」
「うん、安心?」成嶺は不思議そうに小首を傾げる。
「だって、高級レストランとかに連れて行かれたら、どうしようかしらと思って……」
沙織は小声で、成嶺にそう伝えた。服装や化粧などに、全くこだわりの無い沙織は、そういった類の店が苦手だった。それに勿論、財布の心配もあった。
「なるほど、僕もそういった店は苦手です。なにしろ、メロンソーダが無いですからね」
どうやら成嶺は、メロンソーダを好むようだった。すべてがすべて、メロンソーダを置いていないとは限らないが、少なくとも彼の中では「高級」と「メロンソーダ」が一致する関係ではないらしい。
沙織は、若干年上である彼のことが、どうも子供らしく可愛らしくも思えた。
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