第二章(上)

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   意外にもメニューが豊富であったため、沙織はなかなか決められずにいた。決断力の薄い奴だ。結局、悩みに悩んだ挙句、成嶺と同じものを注文した。  窓の外には、ちらちらと粉雪が舞っていた。   「あっ、雪ですね」    沙織は成嶺の視線を外に向けさせようと、そう呟いた。  何せ、彼は瞬きもせずに、沙織のことをじっと見つめているのだ。  沙織はたまらず、頬をほんのり赤らめた。   「沙織さん」   「はっ、はひ!」   「沙織さんは何か、悩み事があるんじゃないかな?」    ずきりと心が痛んだ。確かに、沙織には悩み事があった。  最近、誰かの視線をよく感じるようになったのだ。バスの中でも、大学からの帰り道でも。時には、マンションの出入口に至るまで。  しかし、それが本当かどうかは分からなかったし、単なる思い込みに過ぎない可能性だってある。ただ、一人で背負い込むには少し怖かった。   「なぜ、そう思うのです?」   「これといって確信はありませんが、沙織さんの表情を見る限り、悩み事があるように思えましたので。僕でよければ、相談に乗りますよ」    沙織は迷っていた。家族や友人に話せば、からかわれて笑われる、もしくは大事になってしまう。  知り合って間もない彼になら、客観的な意見を貰えるかもしれない。  でも、迷惑を掛けないだろうか。それだけが心配だった。  
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