第二章(上)

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  「実は、あの、絶対に笑わないでくださいね?」   「ええ。勿論、他言はしませんし、笑ったりなんかしません」    彼の言葉は、沙織に少しの勇気を与えた。  自分の思い過ごしなら、それはそれでいい。彼に話すだけでも、気持ちは幾分か和らぐかもしれない。  沙織は、彼の微笑みに甘えてみることにした。   「ここ最近ずっと、誰かに見られているような、そんな気がするんです。わたしの気のせいかもしれませんが、どうも視線を感じて……」   「それって、その、いわゆるストーカーですか」   「わかりません。人影を見たこともありませんし、何も証拠はありません。だから、両親や友人にも相談できないし、ましてや警察には……ねえ?」    運ばれてきたハンバーグステーキから、美味しそうな香りが漂う。付け合わせのニンジンが、妙にオレンジ色だった。    成嶺は顎に手をつけて、何やらじっと考え込んでいる。  整った顔立ちは、相変わらず綺麗だった。しかし沙織は、彼の横顔をどこかで見たことのある気がした。  
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