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会計を済ませ、沙織たちが店を出た頃には、辺り一面薄らと雪が積もっていた。月の光に反射して、きらめいている。
成嶺は「自分が誘ったのだから」と言って、勘定をすべて支払ってくれた。しばらく彼女は、割り勘でお願いしますと粘ったが、彼が折れることはなかった。
彼は、意外に頑固なのかもしれない。
「何だか、すみません。ご馳走様でした」
「いえいえ。沙織さんと食事ができて、よかったです。本当にありがとうございました」
バス停まで見送ってもらい、沙織は成嶺と別れた。
彼は今から用事があるらしく、バスには乗らずに図書館の方へと歩いていった。
一番後部の座席に腰を下ろし、消え薄れていく成嶺の姿を追った。その後ろ姿は、どこか頼もしくさえ感じる。
沙織はやはり、今夜は変だなと思った。アルコールのせいだろうか。
先ほどの食事で飲んだ赤ワインが、今頃になって酔いを運んでくる。
沙織は、頭がぼうっとなるのを感じた。
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