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街中には色とりどりのイルミネーションが施されている。
車内から見た景色は、やがて訪れるクリスマスを否応無しに感じさせていた。
バスは、ちょうど沙織の住むマンション前に停車する。
この御時世、夜道を女一人で歩くのは危険だ。そんな沙織にとって、この好条件はありがたいものだった。
沙織が住まうマンションを選ぶ際に、それが大きな決め手となったのは言うまでもない。
「ただいまあ」
誰もいない部屋に、沙織は寂しく呟いた。
沙織には、たとえ一人暮らしであっても、なぜか「ただいま」と言ってしまう癖がある。
根っからの寂しがり屋なのかもしれない。
ただ、今夜は違った。
キッチンの方から、かたかたと音がした。
誰もいないはずの暗闇から、床の軋む音も聞こえた。
――誰かがいる。
沙織は直感的に、そう思った。食器が倒れた音や、自然に生じる音ではない。間違いなく、そこに誰かがいる。
沙織は酔った頭をフルに回転させ、キッチンの方へと足を忍ばせた。
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