第二章(上)

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   恐る恐る、沙織はキッチンを覗き込んだ。月明かりが窓から差し込み、部屋全体が淡い光に照らされている。  しかし、そこには誰もいなかった。  沙織はほっと胸を撫で下ろすと、小さな溜め息を吐いた。   「バカねえ……」沙織は自分自身を嘲笑うかのように、そう呟いた。  安心して、気が緩んでいたのかもしれない。  背後から床の軋む音が聞こえた時には、既に沙織の意識は消えようとしていた。        目が覚めたのはいつ頃だっただろうか。  視界がぼんやりとしていて、頭が回らない。沙織は床にうつ伏せたまま、紅い液体を見つめていた。――血だ。    後頭部が痛い。沙織は頭をさするため、ゆっくりと身体を起こした。  眼前に横たわる物体が、沙織の瞳を見上げていた。   「……ひいっ!?」    沙織は思わず息を飲んだ。胸から血を流した物体が、彼女の方を恨めしそうに見ている。  沙織の左手には、真っ赤に染まった包丁が握られていた。    時計の針は、午前二時を指していた。  
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