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恐る恐る、沙織はキッチンを覗き込んだ。月明かりが窓から差し込み、部屋全体が淡い光に照らされている。
しかし、そこには誰もいなかった。
沙織はほっと胸を撫で下ろすと、小さな溜め息を吐いた。
「バカねえ……」沙織は自分自身を嘲笑うかのように、そう呟いた。
安心して、気が緩んでいたのかもしれない。
背後から床の軋む音が聞こえた時には、既に沙織の意識は消えようとしていた。
目が覚めたのはいつ頃だっただろうか。
視界がぼんやりとしていて、頭が回らない。沙織は床にうつ伏せたまま、紅い液体を見つめていた。――血だ。
後頭部が痛い。沙織は頭をさするため、ゆっくりと身体を起こした。
眼前に横たわる物体が、沙織の瞳を見上げていた。
「……ひいっ!?」
沙織は思わず息を飲んだ。胸から血を流した物体が、彼女の方を恨めしそうに見ている。
沙織の左手には、真っ赤に染まった包丁が握られていた。
時計の針は、午前二時を指していた。
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