499人が本棚に入れています
本棚に追加
青年はいわゆる美形に属する顔を持ち、佐藤と目が合った途端、ほんのりと笑みを浮かべて会釈した。そうして青年は、一冊の本を取り出す。
文庫本を包む、黒のブックカバーには『K・N』と書かれていた。
KNというイニシャルに見覚えがあったのか、彼は何度か首を捻ってみせた。青年は尚も読書に勤しんでいる。
電車内には、彼ら二人しかいなかった。
「遅くなりました。今からそちらに向かいます」
駅の改札口を通った佐藤は、電話の相手に向かってそう言った。
財布を入れていたポケットから、十円玉が転げ落ちた。からんと音を立てて。
彼は「あっ」と小さな声をあげたが、落ちた小銭が十円であることを確認すると、そのまま拾うことなく歩を進めた。
「場所は、わかるか? 駅前にコンビニがあるだろう。そこを右に曲がって、真っ直ぐ行けば看板が見えるはずだ」
「コンビニを右に曲がって真っ直ぐ……あっ、見えました。あの白い看板ですね」
「おお、それだそれ。そこで待ってるからよ。カウンターじゃなくて、座敷のほうな」
最初のコメントを投稿しよう!