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広場の片隅には駐輪場が設置されている。九十分以内であれば、無料で利用できるものだ。
買い物袋を提げた女性が、時計を気にしながら慌てて自転車のもとへと駆け寄る。
しかし、ちょうど九十分を越えたところだったのか、自転車のロックは外れなかった。
「あら、やだ」
女性は不満げにそう呟くと、財布から小銭を取り出し、それを精算機の中に入れた。料金は一律で二百円だった。
「あの、すみません」
女性が料金を支払い終えたのを見て、黒の古びたコートを着用し、サングラスをはめた大きな男――大沼警部は、彼女に声をかけた。
「……何でしょう?」
彼女は不審者を見るような目つきで、明らかに訝しげな視線を向けた。
「この写真の男を、御存知ではないでしょうか? どこかで見かけたとか、そういった類のもので構いませんので」
そう言って大沼は、彼女に佐藤潤一の写真を見せた。
「さあ、知りません。ところであなた、刑事さん? ドラマみたいに、目撃情報とか集めているのよね。はじめて見たわあ」
彼女は、大沼をまじまじと観察し、「へえ」とか「なるほど」と一人感心していた。
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