第二章(下)

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   切符売り場の前を、行ったり来たりする男がいる。  男は周囲の視線を気にすることもなく、銀縁の眼鏡を光らせていた。視線の先には、一羽の鳩がいた。   「おい、臼井!」    臼井と呼ばれた彼は、餌を求めさまよう鳩から視線を逸らし、大沼の方を一瞥した。  いかにも、不快感を露わにした表情で答える。   「そう大きな声で、名前を呼ばないでください。周囲の注目を集めるだけでしょうに」    もとはと言えば、自身の不審な行動で注目を集めていたのだが――。  行き交う人々は、何事だと言わんばかりに二人を見つめた。   「おっ、おう、すまん。ところで、佐藤潤一の目撃情報を入手したぞ。まだ詳しい話は聞いていないが、高校生の息子が佐藤潤一らしき人物を見かけたと、買い物帰りの主婦から得た情報だ」   「へえ、それは御苦労様です」   「何だ、やけに感動が薄いな」   「そうですか? これでも一応、自分なりに驚いているつもりなのですが……」    臼井は、自身の視界を遮る長い前髪を指先で摘んだ。  そうして、くるくると弄びはじめる。前髪を弄るのは、彼の癖になっていた。  
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