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彼は電話の指示に従い、目的の居酒屋へと足を運んだ。深夜にも拘わらず、駅周辺には若者たちを中心に、飲み屋を梯子する会社員、ホステスに通う人々などで賑わっている。
もともと田舎生まれの彼にとって、都会独特の空気は合わなかった。
「おう、こっちだ、こっち」
店員を押しのけて、一人の男が佐藤に近付いてくる。男は彼を連れて座敷へ向かうと、座布団の上に腰をおろした。
「堀田(ほった)さん。出来上がっているじゃないですか」
「ああん? 俺が出来上がっているだって? そんなことはないさ。まだまだ飲める」
堀田はビールを片手に、豪快に笑った。今夜は朝まで付き合わされそうな雰囲気だと察したのか、佐藤は肩をがくりと落とした。良い迷惑だといったところだろう。
「堀田さん。そろそろ飲むのも止した方が……」
「あほう。せっかく佐藤が来たっていうのに、これが飲まずにいられるか。大親友、可愛い後輩に乾杯!」
堀田の様子を見て観念したのか、佐藤はネクタイを緩めると、生ビールを一つ注文した。
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