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バスの吊革が、かたりと音を立てて揺れた。
世の中、腐っている。一見、控えめな沙織だが、内心では常々そう思っていた。
席に座っても尚、騒ぎ続ける金髪の女たち。周囲の迷惑を考えず、スナック菓子を頬張りながら、大声で会話をしていた。
歳は沙織とそう変わらないようにも見える。派手な格好が悪いわけではないが、ミニスカートで足を組み、何が可笑しいのか「やばい」と連呼する姿に、少なからず嫌悪感を抱いた。
「ねえ、あの親父マジでやばくない? バーコードじゃん」
バーコードと呼ばれた中年の男は、小さく咳払いした。一体彼女たちには、常識というものが欠けているのだろう。
有名ブランドで飾り立てるよりも、常識というブランドを備え付けた方がいい。
「ああっ、すみません、ここで降ります!」
次のバス停に差し掛かろうとした時、若い男の声が車内に響いた。
あまりにも大きな声だった為か、乗客は一斉に彼を見つめる。後ろで騒いでいた女たちも、会話を止めた。
一方で男は、自身に集められた視線を読みとったのか、酷く赤面した。少しばかり可愛らしくも思えたのは内緒だ。
「次は、国立図書館前、国立図書館前です」
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