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落ち着け、落ち着いて考えよう。自分に言い聞かせたが、震えがとまらなかった。
まず、この部屋はどこだろう。外の景色を見た。なんとなく実家のある町のようだ。
実家の近くを走る私鉄が見えたからだ。
誰に聞く?隆也の携帯番号は分からない。柳瀬、そう柳瀬ならきっと分かるはず。
震える指でアドレスから柳瀬の番号へ掛けた。
「はい、柳瀬です」
聞き覚えのある女の声だった。美晴だ。
「み、美晴?ちょっと柳瀬…さ、んに聞きたいことがあって」
「早苗?なんか変だよ。いつも呼び捨てじゃん。仕事でなんかあったの? あ、旦那に聞きたいことがあるんだっけ、ちょっと待って」
柳瀬と美晴が結婚してる。二人はあれからうまくいったんだ。で、私と隆也は別れたの? 私はいったい何の仕事をしているのだろう。まさかあの会社に居続けている?
「おう、久しぶり。何?仕事忙しいんだろ? すっぱり会社辞めたおまえが羨ましいよ。この不況に関係ないもんな。俺んちまだガキがいないからいいけど、子供ができたらやってけないよ。いつリストラされるかわかんないからな」
柳瀬は、どうやら一緒に働いていた会社に勤めているようだ。
「なに?早苗に愚痴ってんの? ごめんねぇ、早苗~」
電話の向こうから聞こえる美晴の声からは、柳瀬がいうほどの緊迫さはかんじられなかった。
「今日お昼にでも会ってくれない。美晴と一緒でもいいから」
「は? 別にこれからだっていいぞ。今日は日曜だから」
「あ、そ、そうだね。じゃ、うちに来て」
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