まさかの夢

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 バスローブを羽織り、ドアを開けに行った隆也の後について入ってきたのは聡子だった。    バスローブ姿の私を見ないようにして、窓際の椅子に座った。  隆也は何も言わなかった。  聡子が小さな声を出した。 「早苗、私たちの生活をこわさないで、お願い。娘は難しい年頃なの」  相変わらず聡子は優しい。優しすぎる。  私なら喚き散らし修羅場になっていただろう。    聡子を見ているのはとても辛く、私は一言「ごめん、聡子」と言って、手早く着替えて部屋を後にした。隆也はそんな私にも何も声をかけてくれなかった。確かに、聡子が来る前に別れ話をしていたから、この場で何を話すことがあるだろう。  これからのことは、二人が決めればいい。  未来に来るんじゃなかった。ここでは誰も幸せではなかった。  私は隆也を失った。そのことが私を凄く疲れさせた。  田舎暮らしを嫌がっていたが、隆也を失うことのほうがこんなに辛いなんて今頃分かった。大事なものは失くしてから分かるって誰かが言ってたっけ。  ここは、未来の世界だけど、戻ったところで隆也のいない世界がまっているのだ。    ホテルを出ていつの間にか私鉄の駅のホームの椅子に座っていた。  このまま死んでしまえば楽だろうか。そんなことを考えながらふらっと立ち上がった。  ころん、とビンが転がった。いつポケットに入れたんだろう。こんな足が地に着いていない世界では細かいことが記憶から欠如している。  手にとってラベルを眺めた。中身はまだ半分ほど残っていた。黄色の粒がやや多いかな。  短絡的に飲んでしまったためにとんでもないことになった。いいこともあったのだけれど。父と母は生き続けていて、美晴との友情ももどったのだ。できないだろうと思っていた弟に子供が生まれる。    あれこれと場面を思い浮かべると泣きそうだった。私だけが一人取り残されたみたいに思えた。  ふと、ビンの中に黒い粒が一つ入っているのに気付いた。  黒? ラベルにはそんな色のことは書いてなかった。      
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