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別のアニメの歌がまた流れてきた。ドラゴンボールだったかな。
これにはあまり懐かしいという感慨もなかったので、さっとテレビの電源を消した。リビングの電気も消してお風呂に入った。
隆也は最近泊まりこみで仕事をしている。今日は帰ってくるかな。私たちのために働いてくれていることを思うと、さっきの考えが自分よがりに思えて自己嫌悪になる。湯船でそんなことを考えていたら眠ってしまいそうだった。
もともと長風呂ではない。慌てて上がった。
智香の様子をみようと和室を覗くと、黒い物体が動いた。ひっ、と大きな声を出しそうになって寸でのところで止めた。隆也だった。智香を抱きしめてぐっすり寝込んでいる。
そっと薄手のコートを脱がし、ズボンのベルトを緩め靴下を脱がして掛け布団をかけてそのまま寝かせた。
お疲れ様でした。聞こえてはいないと思いながらも小さく呟いた。私はこの人を好きになったのだ。それに迷いはない。私は何に疲れているのだろう。
ふと、さっきのアニメを思い出した。私はどんな夢を持っていたのか思い出せなかった。いや、私の過去を誰か別の人の人生を見ているように考えてしまうことに寂しい気がした。
隆也と出会う前、高卒でとりあえず無難な企業へ就職した。まだ未成年だったが夜遊びもしていた。いつも、高校のときの友達の美晴(みはる)と聡子、それに会社の同期だが大卒だった柳瀬と週末になると集まって騒いでいた。その頃は親もまだ元気でよく心配させて怒らせていた。
そのうち美晴は柳瀬を好きになって私に相談した。聡子も一緒になって応援することにした。
でも、柳瀬は私を好きだといきなり美晴の前で告白してしまい、それ以来柳瀬とも美晴とも気まずくなった。
私は、柳瀬と大学で友達だった隆也に初めて紹介されたときから一目惚れしていた。知的で誠実で、優しい。黒縁メガネが似合うのに、どこか男らしさがあって。確かどこぞの科学研究室の室長だとか。その出来すぎなほどの人格に、私はあっさり虜になってしまったのだ。
柳瀬は隆也と付き合うようになると逆に応援してくれた。隆也から、柳瀬とはずっと友達でいたいから二人で話し合ったと結婚が決まったときに聞いた。
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