7人が本棚に入れています
本棚に追加
目を開けると、アップルティのいい香りがした。高校のときによく訪れた見覚えのある部屋に座っていた。目の前には優しくほほえんでいる聡子がいた。
え? 目の前に聡子がいるってことは何か話していたのだろう。
なら、何から話せばいいの?
「だから、美晴もきっと来てくれるからそのときに仲直りすれば私もすっきりして結婚できるから」
ああ、そうか。思い出した。結婚式の前日に聡子に会いにいったんだった。服だって、ビンを飲んだときは、お風呂上りで部屋着を着ていたはずだが、あのときの服に替わっていた。
一年前に戻っている。頬っぺたをつねってみたかった。
たしか、一粒飲んだのだから一粒一年の単位なのだろうか。
「聞いてるの、早苗?」
今では『ママ』とか『智香ちゃんのおばちゃん』と呼ばれることが多いから、昔の様に呼びかけてくれる聡子の声に少し照れくさかった。そんな私に怪訝な眼差しだった聡子に慌てて応えた。
「あ、ごめん。そうだよね。美晴声かけてくれるかな?」
とりあえず、話を合わせた
「美晴だってきっかけを掴みたいんだと思うよ。だって、柳瀬君がいきなり告って、いい迷惑だよね」
ほんと、迷惑だった。
聡子はいつもこんな感じだった。私と美晴は気の強いところが似ていて、それがここまで長引いてるわけだから。
聡子の家を出て実家に行ってみた。一年前だからそう変わってもいないだろうが、この世界をもう少し探ってみたくなったのだ。
家からなら電車で1時間ぐらいかかる。でもそこは便利な都会だった。
玄関のチャイムを押すと弟が出てきてびっくりしていた。時間は夕方になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!