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「今日は休み?」弟がこんな時間に家にいるのはちょっと変に思えた。
「うん、有希がさ、具合が悪いって病院行ってんだ。ついて行くって言ったんだけど、いいっていうから。でも心配じゃん。だから早く帰ってきて待ってたんだ。でも、こんな時間まで帰ってこないってやっぱ変だよなぁ」
ブツブツと私に話してるのか独り言を言っているのか分からない口調で言う弟の顔を見ながら、私は過去を思い出していた。ほんとの事を話すべきか迷った。
この日、有希さんは産婦人科で2度目の流産を告げられていたのだ。弟には妊娠していたことも隠していた。このあと数時間後に帰ってきた有希さんから全てを聞かされる弟のことを思うといたたまれなくなり、私は急用を思い出した、と言って実家をあとにした。
結局、次の日の聡子の結婚式には智香の発熱で行くことができずに美晴とも会えなかった訳で。今この時に留まっていても何もできないなと思いながら私は上着のポケットにいつの間に入れたのかわからなかったが、あのビンを取り出した。
黄色の粒一つを手に取り、戻ろうと思ったときだった。
もっと過去へ戻れば何か変われるのかな。両親に病気にならないように注意できるかもしれない。美晴とのことだって、柳瀬が告る前の時点に戻れば……。
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