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「むう……そ、そうか」
政義おじさんはそそくさと席を立つと、さっさとこの場から出て行った。
「まったく、これだからパパは――」
「由香里、朝からカッカしないの。しょうがないでしょう、あの人のあれは今に始まったことじゃないんだから」
憤懣やるかたないといった様子の由香里ちゃんを、春菜おばさんが苦笑混じりに諭すように宥める。
私は場の雰囲気を変えるため、未だに煙草の匂いが残る中で口を開いた。
「そうだ由香里ちゃん、学校に行く準備はもうできてるの?」
「もちろん、制服も鞄の中もバッチシだよ。なんなら確認する、お姉ちゃん」
さっきまでの不機嫌っぷりがまるで嘘のようにコロッと一転して朗らかになる。
せっかくの申し出だったけど、私が確認をすると制服にシワが出来そうなので、丁重に辞退した。
「それじゃあ時間は大丈夫?」
「じかん? 時間はねえ……」
時計を見たのだろう、語尾が尻すぼみに小さくなっていったと思ったら由香里ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。
「うそ、もうこんな時間! ゆっくりしすぎちゃった、電車に乗り過ごしちゃう!」
「あら」
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