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『おはよー!』
息を弾ませながら公園の向こう側から駆けてくる清美。
公園には大きな噴水があり、清美の姿をずっと見ていた私にしか『おはよー!』と叫んでいることに気付くことはできなかった。
『おはよー!あっ!待って、トラックが!!清美!?危ない!!』
キキィィーッ!!
ハァッ!!
またあの頃の夢…。
高校生の三年間ずっと一緒に通い続け、行きも帰りも教室もランチも、ずっと一緒だった清美。
卒業式の5日前、暴走トラックに跳ねられわたしの目の前で亡くなってしまった。
あの時の夢…。
今日で5日目。
就職して慣れない仕事に悪戦苦闘してはや5年の月日が流れていた。
『忙しさにかまけて清美のこと思い出す余裕無くなってたね。
ごめん。』
コップに水を注ぎ、窓辺のホォトグラフの側に置き手を合わせる。
『おはよう清美。』
今日も頑張るから見ててね。
慌てて支度をする由香利。
《オボエテル?…》
え!?
誰!?
小さく微かに届く声…。あれは…
『あ!もうこんな時間!!急がなくちゃ遅刻!』
夢の事も、微かな声のことも気にかける暇も無く仕事に向かう由香利。
昨日も遅刻寸前で出勤していたのだ。
夢を見るようになってから、目覚めが悪く体が動くまでに時間がかかっていた。滑り込みセーフ!
何とか電車に間に合った由香利は、いつものドアの側の柱につかまり立ちの姿勢で携帯音楽を聴いて流れる景色に目をやった。
んっ!?
窓ガラスが一瞬暗くなり、長い髪の少女が浮かび上がった。
清美!?
次の瞬間、いつもの風景に戻っていて、誰もが何も無かったように電車にゆられていた。
『疲れているのかな…』
由香利もこれはきっと夢のせいだと思って気を取り直した。
会社では山のように仕事が待っていた。
朝の出来事を思い出す余裕など微塵も無かった。
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