3/5

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
仕事が一段落したのは、午前零時。 『面倒な仕事はみんな私に押し付けるんだから…。』 既に社内はもぬけの空。独り残業をしていたのだった。 大きな窓から街の夜景が浮かび上がってとても幻想的だ。 いつからか、由香利の楽しみになっていた。 『いつ見ても綺麗…。』 由香利が窓ガラスに近づくと、ガラスに映っていたのは、電車の窓に浮かび上がった少女だった! 『何で!?』 声に出して口を押さえたが、ガラスの中の少女が答えた! 《ヤクソク…オボエテル?》 微かな声。朝と同じ。 『何で!?どうなってるの!?』 瞬きした瞬間、少女の姿は消え、元通りの幻想的な夜景が広がっており、ガラスには由香利の姿がうっすらと映っていた。 『あの姿と声。 あれは、紛れもなく清美だった…。約束? 思い出せない。 どうして清美……。』 何も分からないまま、会社を後にするしか無かった。 背筋に冷たいモノを感じつつ、タクシーに乗り家路を急ぐ。 窓に映る景色は静まり返って幾分不気味にさえ感じたが、清美が現れることはもう無かった。 『運転手さん、次の信号右でお願いします。』 車は静かに右折して、由香利のアパートに着いた。疲れた体を引きずる様に部屋の奥のベッドへと倒れ込むと、猛烈な睡魔に襲われそのまま眠ってしまった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加