01:曇天 どんてん

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何かで読んだのをふと思い出す。   人が空を飛ぶことや、大空に羽ばたく夢を持つのは、母なる海へ還りたいから。   どこまでも落ちる(沈む)ことなく、身一つで自由に羽ばたく(泳ぐ)ことのできた、海へ還りたいと願うからだ。   「なるほどねぇ」   そうつぶやいた私は今その母なる大海原に曇天の下、ぽっかり浮かんでいる。   重力を全身で感じられるあの砂浜は今は見えない。   ――岸は見えない。   でも、漂流しているわけでもない。   足には靴の代わりにフィンを履き、沖の方向を見て大の字に海に浮かぶ。   私の横にはボディーボードが私と少しずれたリズムで揺らめいている。     頭を反らせて浜辺の方向を見れば、うねりの上下にあわせて砂浜がかろうじて見え隠れする。   何百メートル離れているのだろう?
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