第7章

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前略 瀬田様 こうして誰かに手紙を書くのは何年振りでしょう。 筆を取る手が震えます……。 まずはお詫びしなければいけませんね。 あなたを待っていると言ったのにも関わらず、この様な手紙を残して去る私をお許し下さい。 あなたを愛し、同情でも良いから抱いて下さいと言って困らせた私をどうかお許し下さい。 昨日、あなたを知る方とお会い致しました。 あなたは私に売れない絵描きだと仰いましたが、とても名のある画家だったのですね。 その知人の方に、私がいるせいであなたのお仕事が捗らないと言われました。 たしかにそうですね……あなたは優しくて、足の不自由な私を気遣い、楽しい日々を下さいました。 外の空気や木々の清々しさ、素晴らしい世界を私に気付かせ与えて下さいました。 あなたがいてくれたからこそ、色鮮やかな世界を見る事が出来ました。 こんな幸せな時間がいつまでも続けば良いと、私は切に願っておりました。 ですが、その思いがあなたの将来を妨げていたなんて知らなかったのです……無知な私をお許し下さい。 小川への散歩……写生もたまになら良いでしょうが、我侭な私は毎日あなたに会いたい。 会って、沢山の話をしたい。 触れたい。 その瞳が開いている時は私だけを見つめて欲しい。 許されるのであれば、ずっとあなたの傍にいたいのです。 わがまま以外の何でもありません……。 貪欲な私はあなたの絵を描く時間を奪ってしまうでしょう。

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