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車から降りたヒロは、厳しい寒さに身をすくめた。吐く息の白さが寒さをよりいっそう際立たせる。気付けばもう12月…ついこの間まで夏だったのに、時が経つのは本当に早い。
車に寄り掛かると煙草に火をつけ、どんよりとした空を見上げる。
「夏にサヤと見た空は綺麗だった…」
煙を空に向かって吐き出すと、胸元の携帯電話からけたたましい音楽が鳴り響く。
「はい?」
「……」
「もしもし?」
「早く帰って来なさいよ」
一言で電話は切れた。あからさまに怪しむような口調の妻・タエコの様子に、ヒロはため息をつく。
また今日も家に帰る。
昔のような愛情もなくなったのに…ただ愛する子供の為に。
さっきまで会っていたのに、サヤの笑顔を見たくなっていた。
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