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彼女が放ったその一言は僕を動揺させるに十分な一言だった。
太陽の匂いがする。
それはこの世界では「毒やウイルスのおそれがある」と同等の意味を持つ。
しかし…太陽に匂いなんてものが無い事を僕は知ってる。
それなのに何故この子は『匂い』と……
「…キミは太陽を見た事があるのかい?」
「いや、見た事は無い。それでも何故か太陽の匂いはわかるのだ。何故かはわからないけど。」
「…………。」
「貴様は…太陽を見た事があるのか?」
僕は考える。
太陽を見た事があるという事は、太陽の光を浴びたという事になる。
この世界では太陽の光を浴びた生物は第一級隔離生物扱いだ。
もう50年も前にそんな法律が出来てしまったから。
要するに彼女の質問に答えようによっては僕は普通の生活が送れなくなる。
……僕は少しだけ考えてから彼女の質問に答えた。
「うん。あるよ。」
「そうか。それは羨ましいな。身体は大丈夫なのか?」
「……太陽はね、決して悪いものじゃないんだ。」
「……?」
「学校で太陽の光はウイルスや毒を撒き散らすものだと教えられただろ?そんな事は…無いよ。」
「そうなのか。それなら……見てみたいものだな。昔の文献を見れば太陽を神と崇める宗教もあったという。実に美しいもの、だという。」
この子は……
他の人間とは違うんだな…。
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