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笑顔
母親は半信半疑の様子でわたしを精神科に連れていった。そこで、わたしは精神科医に「鬱病」と診断された。断定はしていないらしいが、きっと間違いないのだろう。
いつからか、マイナス思考が自分自身に植え付けられていた。いや、いつからか…ではなく、小さい頃からだ。それは少しずつ芽をのばして、気づいた時には、もう青葉の茂った立派な大木にまでなっていた。手のほどこしようがないほどに。
わたしは、特にこれといって何にもない田舎町に暮らしている。マイナスな刺激になるようなものは、人々にはないのかもしれない。でも、田舎独特の湿っぽく感じるものは、都会に住む人たちには、多分わからない。
暇な人たちは、大したことでもない出来事に尾ひれをつけて、とんでもない出来事にでっちあげては楽しんでいる…そんなことは日常茶飯事だ。それを聞いたり、見たりするだけでも、うんざりした。こころがとても疲れた。
どこにでもあるのかもしれないけれど、おかしな仲間意識。変なところで、結束力が強い。悪者を作りあげて、悪者を退治しようとする。いわゆる、いじめ。退治するためなら、何でもする。そして、不気味にほほえみあう。あの笑顔を見ると、ゾッとする。
「ねえ、いったい何を考えているの?」
わたしは何度もこころの中で問いかけつづけた。自分も結局は弱いのだ。標的にならないように、当たり障りのないように、それだけを考えて生きてきた。でも、もうわたしは疲れていた。
「美里、ここんとこ顔色悪いやんか? なあ、どうしたん?」
わたしがたったひとりだけ、こころを許せた友人、香織は言った。それは、彼女が死ぬ一カ月前のことだった。学校をサボりたくなるようほど、よく晴れた日で気持ちいいはずなのに、気持ちは沈んだままだった。
「何か疲れが抜けへんくては。ここんところ、ずっとそうなんやわ」
少し大げさに頭を抱えながら、わたしは言った。
「ちょっとわかるかもしれへん、そういうの。わたし、ずっとそんな感じやもん…ほんっと嫌やんなあ」
香織はわたしの頭をなで、やさしく笑って言った。何故かその時の彼女の笑顔は、とても印象的だった。自然とこころからホッとした。笑顔を例えるなら、あの日の天気のようだった。でも、今では思い出すだけで、涙があふれて止まらなかった。
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