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ベッドの中はあたたかい。いつまでわたしはこうしているのだろう。でも、このあたたかさはわたしに安らぎを与えてくれる。
「美里、こんなことになって、ごめんね」
ふっと香織が書いてくれたわたしへの手紙――遺書の一行目を思い出した。
――香織、いったいどこへ消えていったの? どうして逝ってしまったの? わたしはこころの中でつぶやいた。もちろん、答えは返ってこない。
香織の死因は、首吊りによる窒息死。発見者は、彼女の母親だった。この母親は、彼女を助けてくれなかった。彼女が父親からの虐待への助けを何度も求めても、鼻から嘘だと決めつけていた。
「お父さんがそういうこと、する訳ないやろ? 何であんたに暴力ふるって、わたしには暴力ふるわへんの? おかしいやろ?」
香織は、母親に絶望した。涙を浮かべながら、わたしに学校の屋上で話してくれたことを今でもくっきりと覚えている。
「何でわたし、嘘つかなあかんのやろ…? 何で嘘つき呼ばわりされなあかんのろ…?」
そう言うと、香織はわんわん泣き出した。わたしはただ彼女の母親を憎むこと、彼女を抱きしめることしかできなかった。
「わたしが直接さ、香織のお母さんに言うたる。香織、嫌かもしれんけど、裸になって、痣見せたり…なあ?」
わたしは、思いついたことを言った。
「…わかった。ちょっと協力してもらっても、ええかな? ごめんな、巻きこんでしもて…」
すすり泣きながら、香織は言った。わたしは「気にせんくてええから」と言った。彼女はわたしを強く抱きしめた。そして、またわんわん泣きはじめた。
後日、学校帰りに香織の家に行った。
「お邪魔します」
わたしがそう言って、家に入ると、香織の母親は明るく「いらっしゃい、美里ちゃん」と言った。彼女の母親は外面がいいのは、スナックを経営しているからだろう。そして、彼女の父親は、母親がスナックで働いている間に、彼女を虐待する。
「あの…いきなりなんですけど、今日は香織ちゃんのお母さんにお話があって、来ました」
かしこまって、わたしは言った。香織はわたしの手をぎゅっとつかんだ。不安をかみ殺して。
「あら、何かしら?」
これから、闘いが始まるのかと思うと、わたしは冷や汗が出てきた。でも、闘わなくてはならない。そう思って、ごくりと唾液を飲みこんだ。
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